4.1 組織及びその状況の理解
はじめに
ISO9001/ISO14001コンサルタントの視点で、組織のISOへの現状の取組み状況と一層有効な取組みについて、これまでの審査員やコンサルタントしての多くの経験からの一つの見方をブログにまとめて行きたいとの思いで書き始めました。
ISOの審査では、主に、規格や組織が決めた要求事項へ適合しているか、及び有効に実施されているかを確認しますが、組織の立場に立って、コンサルタントの視点から見ると、一層組織に役立つ見方もあると感じることが多くあります。
4 組織の状況
品質・環境マネジメントシステムを計画するに当たり、まずは組織が置かれている状況を理解し(4.1、4.2)、その理解に基づき組織の品質・環境マネジメントシステムの適用範囲を決定すること(4.3)、また、4.4はこの規格の要求事項を包括的にまとめています。
4.1 組織及びその状況の理解
事業プロセスへの統合
規格の5.1.1 c) では、「組織の事業プロセスへの品質/環境マネジメントシステムの要求事項の統合を確実にする」とあります。ISO9001:2015解説(3 主な改正点 b) 事業プロセスへの統合)では、「この要求事項は、事業とは独立してしまっている品質マネジメントシステム、及び品質マネジメントシステムの計画・運用そのものが目的になるような形骸化した適用を阻止する狙いがある。」とあります。
規格要求事項は、企業経営において取組む最低限の事項であり、組織に有効な規格要求事項を超えた取組みにより、事業活動へのより良い取り組みができると考えられます。
組織の目的
規格の4.1 には「組織は、組織の目的に関連し・・・」とありますが、その目的とは何でしょうか?
組織の目的とは、定款や事業方針等で示される事業場の目的と考えられます。
ドラッカーによると、社会を構成する組織や個人が社会に貢献しているからこの社会は成り立っており、社会の中の組織はどれも社会に貢献するために存在します。それぞれの組織は自らの仕事を通して具体的な成果を出し、社会に対するそれぞれの役割を果たさなければならない。つまり、組織の目的は組織の外にあるとしています。
3つの貢献
また、ドラッカーは、組織を運営するマネジメント層が次の3つの役割(tasks)を果たさなくてはならないと言っています。
1.自らの組織に特有の目的と使命を果たす。
それぞれの組織の事業活動を通して、組織固有の目的と使命を果たすことにより社会は成り立っている。
2.仕事を生産的なものにし、働く人たちに成果をあげさせる。
組織に働く人達が意味のある生産的な仕事に従事し、自らの責任を果たして成果をあげ組織や社会に貢献することにより人間は自分の存在意義を感じる。
3.自らが社会に与えるインパクトを処理するとともに、社会的な貢献を行う。
組織は自らの目的や使命を果たすだけでなく、組織活動によって社会に与える影響(例えば騒音の発生)も処理しなければなりません。
経営理念
経営理念も組織の目的に関連します。
経営理念とは、企業の創業者や経営者(社長)が示す、 企業の経営や活動に関する基本的な「考え方」、「価値観」、「思い」、そして「企業の存在意義」を指します。経営理念を掲げる目的は
①「何のためにこの会社は存在しているのか」、「会社の目指す方向性は何か」など組織としての行動指針を示します。
②経営理念は企業の考え方や価値観、そして社会的使命を明示し、「社会へのメッセージ」として発信することは、最終的に企業の利益へとつながります。
➂経営理念は、企業経営を担う経営者(社長)にとっても重要な判断軸であり、経営戦略にも大きな影響を与えます。
戦略的方向性
組織の中長期的な展望を意味し、組織の品質マネジメントシステムを組織の事業活動と乖離せず整合することを意味しています。
意図した成果
“意図した結果”には、マネジメントシステムで何を得たいのか、その目的を明確にし、目的指向でもってシステムを運営管理することを強調する意図があり、ここから組織の方針及び目標へと展開されることになります。
<ISO14001:2015 1 適用範囲>には
この規格は,組織が,環境,組織自体及び利害関係者に価値をもたらす環境マネジメントシステムの意図した成果を達成するために役立つ。環境マネジメントシステムの意図した成果は,組織の環境方針に整合して,次の事項を含む。
- 環境パフォーマンスの向上
- 順守義務を満たすこと
- 環境目標の達成
<ISO14001:2015 付属書A.3>には
“意図した成果”(intended outcome)という表現は,組織が環境マネジメントシステムの実施によって達成しようとするものである。最低限の意図した成果には,環境パフォーマンスの向上,順守義務を満たすこと,及び環境目標の達成が含まれる。組織は,それぞれの環境マネジメントシステムについて,追加の意図した成果を設定することができる。例えば,環境保護へのコミットメントと整合して,組織は,持続可能な開発に取り組むための意図した成果を確立してもよい。
<ISO9001:2015 1.適用範囲>には
この規格は,次の場合の品質マネジメントシステムに関する要求事項について規定する。
a) 組織が,顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する能力をもつことを実証する必要がある場合。
b) 組織が,品質マネジメントシステムの改善のプロセスを含むシステムの効果的な適用,並びに顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項への適合の保証を通して,顧客満足の向上を目指す場合。
<ISO9001の意図した結果>
ISO9001の意図する成果とは、組織全員で製品の質をベストの状態に保ち、お客様へ提供する製品の質に取り組むことにあります。例えば、不良率を減らす、お客様からのクレームを減らす、顧客へ有効な提案を行うなどがあり、その結果として顧客満足向上に結びつけることにあります。
組織の能力に影響を与える
マネジメントシステムを導入する目的として「意図した成果」があり、意図して成果を達成するためには、組織の能力(事業規模や技術力)、従業員の構成や他社との競争力などや機能を考慮して、それらを阻害するリスクや課題はどういうものがあるかについて決定することが求められています。
内部及び外部の課題
<ISO14001:2015 付属書 A.4.1 組織及びその状況の理解:内外の課題(issues)の例>
4.1 は,組織が自らの環境責任をマネジメントする方法に対して好ましい又は好ましくない影響を与える可能性のある重要な課題についての,高いレベルでの,概念的な理解を提供することを意図している。課題とは,組織にとって重要なトピック,討議及び議論のための問題,又は環境マネジメントシステムに関して設定した意図した成果を達成する組織の能力に影響を与える,変化している周囲の状況である。
組織の状況に関連し得る内部及び外部の課題の例には,次の事項を含む。
- 気候,大気の質,水質,土地利用,既存の汚染,天然資源の利用可能性及び生物多様性に関連した環境状態で,組織の目的に影響を与える可能性のある,又は環境側面によって影響を受ける可能性のあるもの
- 国際,国内,地方又は近隣地域を問わず,外部の文化,社会,政治,法律,規制,金融,技術,経済,自然及び競争の状況
- 組織の活動,製品及びサービス,戦略的な方向性,文化,能力(すなわち,人々,知識,プロセス及びシステム)などの,組織の内部の特性又は状況
<参考>
外部の課題(ISO14001関連)
外部状況が組織に与える影響(EMSに関連する外部の動き)
例:エネルギー価格の上昇、建設業従事者不足、自然環境、:社会・経済の動向 、新しい法律の制定や改定、材料費の高騰
内部の課題 (EMSに関連する内部の強みや弱みを示す)
例:省エネ工程に変更するための技術、資金の資源不足、製品開発体制が弱い、組織固有の技術や企業カルチャー、従業員の労働環境、生産設備の老朽化や人材の高齢化による技術伝承不足
業務計画への反映
組織の業務計画を考える際に外的環境、内部の状況を前提に考えて計画するのが一般的と考えられる。
SWOT分析
規格ではSWOT分析をすることを要求してはいないが、組織の現状分析及び今後の方向性を決めるための前提を整理することには役に立つ面もある(SWOT分析については、別の機会に記載)。
課題には,組織から影響を受ける又は組織に影響を与える可能性がある環境状態を含めなければならない。
組織の内外の課題には、組織の活動、製品及びサービスに影響を与える自然環境も含まれる。
従来のEMSは、組織が環境に与える影習を評価し、その中で著しいもの、特に悪影響をいかに小さくして改善していくか、ということに主眼が置かれていた。
一方、2015年版では、組織が環境に与える影響だけではなく、環境の変化、例えば気候変動や資源枯渇が組織にどういう影響を与えるか、についても考慮することが求められている。これにより、環境と組織の間の影響を双方向で捉えることが必要となり、組織がこうした環境状態の結果を特定、評価し、必要に応じてマネジメントすることが意図されている。
「組織から影響を受ける環境状態」の例として、組織からの基準値を超えた排水による水質汚染等が考えられる。
また、「組織に影響を与える可能性のある環境状態」の例として、気候変動による豪雨によってサプライチェーンが寸断され、組織の生産活動に影響が出ることや、資源の枯渇等により資材調達が困難になること、などが挙げられる。
<ISO14001:2015 新旧規格の対照と解説>
組織及びその状況の理解に関する共通要求事項の意図は,マネジメントシステムにプラス又はマイナスの影響を与える可能性がある重要な”課題(issues)”を”高いレペルで(戦略的に)”理解することにある。英語で行われる国際会議において,”ハイレペル”や”戦略的”という言葉使いに誰も特段の大きな疑問を投げかけなかったのだが.議論の中で出てきたほかの言い方をすれば,”上級管理職”あるいは”経営層”が検討するレベル,という理解をするのが正しいだろう。ここで得られた知識は.その後のマネジメントシステムの計画,実施及び運用の取組みを決める際に活用される。
プラスの影響を与える可能性がある重要課題も併せて見いだす必要がある。なぜなら.経営層が会社や事業をとりまく状況を把握しようとするとき.ネガティブな問題だけではなく成長の機会を見いだすことも必要だからである。
JCTG(ISO/TMB(技術管理評議会/TAG13-JCTG(合同技術調整グループ))ガイダンスによると
〈外部の課題の例〉
国際,国内,地域又は地方を問わず.文化,社会.政治.法律,規制.財務,技術,経済,自然及び競争の状況
環境特性,又は気候・汚染・資源入手可能性・生物多様性に関連する状態,及び,組織がその目的を達成する能力に対してこれらの状態が与え得る影響
〈内部の課題の例〉
次に示すような,組織の特性又は状態
・組織の統治,情報の流れ及び意思決定プロセス
・組織の方針,目的,及びこれらを達成するために策定された戦略
・資源の観点から見た組織の能力(例えば,資本,時間,人員,知識.プロセス.システム,技術)
・組織の文化
・組織が採択した標準,指針,モデル
・組織の製品及びサーピスのライフサイクル