7.5“文書化した情報”の管理のポイント
文書化した情報管理のポイントはどんなことでしょうか?これまで多くの組織の審査を通じて気になった点についてまとめました。
対象となる文書化した情報
規格が要求している文書化した情報は、次の通りです。
- 規格が要求する文書化した情報
- 組織が必要であると決定した文書化した情報
組織の規模・製品の種類・プロセスの複雑さなどにより、それぞれの組織で異なります。
適切な識別
適切な識別がされていない文書化した情報は、組織内外でさまざまな問題を引き起こす可能性があります。主な問題点は以下の通りです:
- 混乱や誤解の発生
複数のバージョンが存在した場合、どの文書が最新で正しいのかが分かりにくくなり、誤った情報が伝達されるリスクがあります。
- 業務効率の低下
情報の所在や更新履歴が明確でないと、必要な情報を探す時間が増え、業務プロセス全体の効率が低下します。
- コンプライアンスや監査対応の難航
外部規制や内部ポリシーに基づく文書管理が求められる場合、識別が不十分だと監査時に問題が指摘され、改善措置を求められる可能性があります。
- 品質管理やリスクマネジメントの問題
正確な文書管理ができないと、製品やサービスの品質に関する基準や手順が誤って伝えられ、結果として品質低下やリスクの増大につながります。
- 情報の信頼性の低下
利用者がどの情報を信頼すべきか判断できなくなり、意思決定プロセスにおいて不確実性が増すことが考えられます。
このように、文書化した情報が適切に識別・管理されていない場合、組織全体の運用や信頼性に悪影響を与える可能性があるため、正確な管理体制の確立が重要です。
正確な管理体制を確立するためには、以下のようなアプローチが効果的です。
- 明確な方針と手順の策定
- 文書管理ポリシーの制定
文書の作成、レビュー、承認、配布、廃棄に関するルールや基準を明確に定めます。 - 手順書(SOP)の整備
文書管理の各プロセス(バージョン管理、アクセス権限の設定、変更履歴の記録など)を詳細に記述し、誰がどの段階で何を行うかを明確にします。
- 文書管理システムの導入
- デジタルツールの活用
専用の文書管理システム(DMS)やクラウドサービスを利用して、文書の作成・保存・検索・更新を一元管理することで、常に最新の情報にアクセスできるようにします。 - バージョン管理の徹底
各文書に対して、版数や更新日を明記し、過去のバージョンとの違いが追跡できるようにします。
- アクセス権限とセキュリティ管理
- 権限設定の明確化
各文書に対して、誰が閲覧・編集・承認できるのかを細かく設定し、情報の不正利用や誤用を防ぎます。 - 定期的な監査とチェック
システム内のアクセスログや変更履歴を定期的に監査し、不正な操作がないか確認する仕組みを整えます。
- 定期的なレビューと更新
- レビューサイクルの設定
文書が常に最新の状態を保てるよう、定期的なレビューのスケジュールを設定し、必要に応じて内容の更新や改善を実施します。 - フィードバックの活用
利用者からのフィードバックを収集し、改善点を反映させる仕組みを取り入れることで、実際の業務に即した管理体制を構築します。
- トレーニングと教育の充実
- 従業員向け研修
文書管理の重要性や具体的な手順について、定期的な研修を行い、全員が同じルールを理解・遵守できるようにします。 - 新入社員へのオリエンテーション
新たに加わったメンバーにも早期に管理体制や運用ルールを周知し、統一された運用を実現します。
これらの施策を組み合わせることで、文書化した情報が正確かつ効率的に管理され、業務の効率化とリスクの低減につながります。
検索性
文書化した情報の検索性が悪いと、以下のような弊害が発生します:
- 業務効率の低下
必要な情報を探すのに余計な時間がかかるため、作業効率が悪化し、業務全体のパフォーマンスに影響を与えます。 - 意思決定の遅延
適時に正確な情報を得られないことで、意思決定が遅れ、ビジネスの迅速な対応が阻害される可能性があります。 - 重複や不整合な情報の発生
同じ内容の文書が複数存在したり、更新情報が分散していると、どれが最新か判断しづらくなり、誤った情報に基づく判断がなされるリスクがあります。 - コンプライアンスや監査への影響
文書の検索性が悪いと、規制遵守や内部監査に必要な情報を迅速に提出できず、コンプライアンス上の問題が生じる可能性があります。 - コミュニケーションの混乱
社内の情報共有が円滑に行われず、関係者間での認識のズレや誤解が発生しやすくなります。
このように、情報の検索性が悪いと組織全体の業務効率や意思決定、さらにはコンプライアンスにまで悪影響が及ぶため、適切な検索機能の整備が重要です
適切な検索機能を整備するためには、技術的な対策と運用面での工夫が必要です。以下に主な方法を示します。
- メタデータの充実と整備
- メタデータの付与
各文書に対して、作成日、更新日、カテゴリ、キーワードなどの属性情報を付与することで、検索時に絞り込みやすくします。 - 統一されたタグ付け
タグやキーワードの命名規則を定め、複数の文書間で一貫性のある管理を行うことで、検索精度を向上させます。
- インデックスの最適化
- 全文検索エンジンの導入
ElasticsearchやSolrなどの全文検索エンジンを用いて、文書全体の内容を対象に高速かつ精度の高い検索が可能な環境を構築します。 - 定期的なインデックスの更新
新規文書や更新された文書が速やかに検索対象に反映されるよう、インデックスの自動更新を実施します。
- 分類システムとフィルタリング機能の整備
- フォルダやカテゴリの明確化
文書を業務内容やテーマごとに整理し、利用者が目的の文書にアクセスしやすい分類体系を構築します。 - 検索フィルターの活用
作成者、日付、文書の種類などでフィルタリングできる機能を実装することで、目的の情報を素早く見つけられるようにします。
- ユーザーインターフェースの改善
- 直感的な検索窓の設置
利用者がシンプルかつ効率的に検索クエリを入力できるデザインを採用します。 - サジェスト機能の活用
入力途中で関連キーワードや過去の検索履歴を提示することで、利用者が検索の方向性を見つけやすくします。
- 検索エンジンのパフォーマンスとセキュリティ
- 高速なレスポンス
検索結果の表示速度が速いことは利用者のストレスを軽減するため、パフォーマンスチューニングやキャッシュ機構の導入を検討します。 - アクセス制御の強化
検索結果に対して、利用者の権限に応じたアクセス制御を行うことで、機密情報の流出を防ぎます。
- 利用者教育とフィードバックの活用
- 操作方法の研修
利用者に対して、検索機能の使い方や検索クエリの工夫についてのトレーニングを実施し、効果的な利用方法を普及させます。 - フィードバックの収集
検索結果の精度や使い勝手に関する利用者の意見を定期的に収集し、システム改善に反映させる仕組みを整えます。
これらの対策を組み合わせることで、文書化した情報の検索性が大幅に向上し、業務効率の改善や意思決定の迅速化につながります。
意図しない改変から保護
文書化した情報が意図しない改変から保護されるためには、技術的対策と運用上のプロセス整備の両面からアプローチすることが重要です。以下に具体的な方法を示します。
- アクセス権限の厳格な管理
- ユーザー権限の設定
閲覧、編集、削除などの権限を明確に定義し、必要最低限の権限だけを付与することで、不要な改変リスクを減らします。 - 認証・認可の強化
多要素認証(MFA)の導入や、定期的なパスワード更新など、アカウントの不正利用を防止する仕組みを整えます。
- バージョン管理システムの導入
- 変更履歴の記録
すべての改変内容や担当者、変更日時を記録し、意図しない変更があった場合に迅速に元の状態に戻せるようにします。 - ロック機能の活用
重要な文書は、特定の編集作業が完了するまで他のユーザーが編集できないようにロック機能を利用し、同時編集による意図しない変更を防ぎます。
- デジタル署名と監査ログの活用
- デジタル署名の導入
文書に対してデジタル署名を付与することで、改ざんが行われた場合に署名の不一致で検知できるようにします。 - 監査ログの定期チェック
アクセスや変更の履歴を定期的に監査し、不正な操作や予期しない改変が行われていないか確認します。
- 運用プロセスの整備
- 標準運用手順(SOP)の策定
文書の作成、変更、承認プロセスを文書化し、全員が従うべきルールを明確にします。 - トレーニングと教育
文書管理の重要性と正しい操作方法について定期的な研修を実施し、意図しない改変が発生しないよう従業員に周知徹底を図ります。
- バックアップとリカバリー体制の構築
- 定期的なバックアップ
万が一、意図しない変更や事故が発生した場合に備え、定期的にバックアップを取る仕組みを整備します。 - リカバリープロセスの明確化
改変が発覚した場合の復旧手順をあらかじめ定め、迅速な対応ができる体制を確立します。
これらの対策を総合的に実施することで、文書化した情報が意図しない改変から効果的に保護され、業務プロセスの安全性と信頼性が向上します。
組織を守る文書管理の新戦略―識別、検索、改変防止の三本柱
文書化情報管理は、規格や組織判断に基づく文書を対象とし、適切な識別、検索性の向上、意図しない改変の防止が求められます。識別不足は混乱、業務効率の低下、監査対応や品質管理の問題につながるため、明確なポリシー・手順、文書管理システム、バージョン管理、権限設定、監査ログによる管理が必要です。また、メタデータ整備や全文検索エンジン、UI改善、利用者教育を通じた検索機能の強化と、アクセス管理やデジタル署名、バックアップで改変防止を実現することが重要です。