ISOコンサルタントの視点による“9.1.3 分析及び評価”
“9.1.3 分析及び評価”では、どんなことを実施すれば良いのでしょうか。“9.1.3 分析及び評価”における実施事項及びパフォーマンス改善に結び付いた事例について解説します。
「9.1.3 分析及び評価」における実施事項
ISO 9001:2015の「9.1.3 分析及び評価」は、組織が品質マネジメントシステム(QMS)の有効性や改善点を把握するために、収集した情報を体系的に分析し、結果を評価するプロセスを求める規格要件です。主に以下のポイントが含まれます。
- データの分析対象
- 製品・サービスの適合性(顧客要求事項や法令・規制要求事項との適合)
- 顧客満足度に関する情報
- プロセスのパフォーマンス(生産性・品質・納期など)
- 品質目標の達成度合い
- 外部供給者のパフォーマンス(サプライヤ評価など)
- 分析の目的
- 組織が設定した品質目標(KPIなど)の達成状況を把握する
- 不適合や是正措置の傾向を特定し、再発防止策や継続的改善につなげる
- リスクや機会を把握して、組織のパフォーマンス向上を図る
- 顧客満足度を高めるための施策や改善活動を検討する
- 評価の視点
- QMS全体の有効性(規格要求事項や自社で定めた運用ルールに対する適合性)
- 顧客要求事項・社内要求事項を満たすための成果
- 過去のデータや他部門との比較を通じた傾向分析
- 新たな課題・改善機会の発見とリスク評価
- 結果の活用
- マネジメントレビュー(ISO 9001:2015の9.3)のインプットとして活用
- 継続的改善(箇条10)や、リスクおよび機会への対応(6.1)などの関連プロセスへ反映
- 組織全体へのフィードバックと教育・訓練計画への反映
- 必要に応じた方針や手順書の改定
要するに、「9.1.3 分析及び評価」では、QMSにおけるモニタリングや測定活動から得られたデータを効果的に分析し、組織の品質パフォーマンスを評価することが求められます。その結果を活用して、組織は品質向上やリスク低減、顧客満足度向上に向けた具体的なアクションを取ることができます。
“分析及び評価”の結果、パフォーマンスの改善に結び付いた事例
以下に、ISO 9001:2015の「9.1.3 分析及び評価」に基づいて収集・分析したデータを活用し、実際にパフォーマンスの改善につながった事例を5つ挙げます。いずれの事例も、データの可視化→原因分析→対策立案→モニタリングという一連の流れを経て成果を得た点が共通しています。
- サプライヤパフォーマンスの改善
- 事例の概要:
組織が購買部門でサプライヤからの納期遅延や品質不良に関するデータを継続的に収集。サプライヤ別に不良率や納期遵守率を可視化したところ、一部のサプライヤに遅延が集中していることが判明した。 - 分析と対策:
遅延の原因を分析すると、在庫管理の不備や輸送手段の手配不足が大きく影響していると判明。該当サプライヤと定期的に協議し、納入スケジュールの見直しや在庫管理システムの導入を促した。 - 改善効果:
納期遵守率が大幅に向上し、製造ラインの稼働停止リスクが減少。顧客への納品遅れも減り、最終的に顧客満足度の向上につながった。
- 不適合・クレームの削減
- 事例の概要:
顧客からのクレーム内容や発生頻度を月ごとに集計・分析。特に同じ製品カテゴリーにクレームが集中していたため、詳細に不具合内容を分類した。 - 分析と対策:
クレーム発生の原因をフィードバックし、製造工程や検査プロセスを見直した結果、検査装置の精度不足や作業手順の不備が問題の一因とわかった。検査工程の追加や作業標準書の改訂を実施。 - 改善効果:
不適合品の発生率が大幅に低下し、クレーム件数も削減。クレーム対応にかかるコストも減り、アフターサービス部門の負荷が軽減した。
- リードタイムの短縮
- 事例の概要:
受注から出荷までのリードタイムをプロセスごとに計測し、各工程での待ち時間や手戻りがどの程度発生しているかを可視化。特に一部工程でリードタイムが極端に長いことがわかった。 - 分析と対策:
該当工程を調べたところ、設備の段取り替えが頻繁に発生していることや、人員配置が不足している時間帯があることが判明。段取り替えの標準化や作業スケジュールの再編成を実施。 - 改善効果:
リードタイムが全体として20〜30%短縮し、受注から出荷までのサイクルが早まった。顧客に対して「短納期対応」が可能になり、競合優位性が高まった。
- 顧客満足度の向上
- 事例の概要:
定期的に実施している顧客アンケートの結果を集計し、顧客が重視する項目(価格、品質、アフターサービス、納期など)をスコア化。低評価だった項目を優先度の高い課題としてピックアップした。 - 分析と対策:
低評価の理由を顧客からの自由意見欄やクレーム内容と照合し、課題を特定。特にアフターサービスの対応速度が遅いことが不満につながっていると判明。コールセンターの体制強化やサービス拠点の拡充などを計画的に実行。 - 改善効果:
翌年のアンケート結果ではアフターサービスに関する評価が向上し、総合満足度スコアも上昇。口コミによる新規顧客の獲得にも貢献し、売上拡大につながった。
- コスト削減と収益性の向上
- 事例の概要:
製造コスト、品質コスト(不適合・クレーム対応に要する費用など)、および歩留まり率に関するデータを一元管理し、部門横断で見える化。どの工程や製品でコストがかさんでいるかを把握した。 - 分析と対策:
歩留まりの低い製品や工程に対して、原因調査を実施。古い設備の精度不足や、作業員の熟練度の差が影響しているとわかった。設備の更新や自動化の検討、作業員の教育強化を実施。 - 改善効果:
歩留まり率が改善し、材料ロスや再加工コストが減少。最終的に製造コストが削減され、利益率が向上。投資回収期間も短縮され、経営陣からの評価が高まった。
これらの事例はいずれも、「9.1.3 分析及び評価」で収集したデータを根拠に原因を突き止め、効果的な対策を打つことで、品質パフォーマンス全体の向上につながった事例です。組織が継続的に分析と評価を行い、改善施策を着実に実行することで、最終的には顧客満足度と組織の競争力が高まります。