ISOコンサルタントの視点による“「9.2 内部監査」徹底解説:実施内容と外部審査で指摘されやすいポイント”
“9.2 内部監査”では、どのようなことを実施すれば良いのでしょうか。実施内容の概要と外部審査における指摘事項事例について解説します。
「9.2 内部監査」の概要
内部監査は、品質マネジメントシステム(QMS)が規格および組織の要求事項に適合しているかを確認し、その有効性を検証・改善するための重要なプロセスです。
- 内部監査の目的と役割
- 適合性の確認: 規格や自社の規定・手順に対して、プロセスや成果物が適合しているかを検証する。
- 有効性の評価: QMSが狙い通りに機能しているか、目標達成や継続的改善に寄与しているかを評価する。
- 改善点の抽出: 不適合や改善可能な領域を特定し、是正処置・予防処置などを通じて組織の品質を向上させる。
- 内部監査プログラムの策定
ISO 9001の9.2では、内部監査を計画的に実施するための「監査プログラム」を要求しています。監査プログラムは、以下のような要素を含みます。
- 監査の目的: なぜ監査を行うのか(適合性の確認、改善点の抽出など)。
- 監査の範囲(スコープ): 組織全体、または特定部門・プロセスなど、どこを対象にするか。
- 監査の頻度・スケジュール: 年間計画など、どのタイミングで監査を実施するか。
- 監査の手法: インタビュー、文書レビュー、現場観察など、どのように情報を収集し評価するか。
- 監査責任者・監査員: 誰が監査を主導し、誰が監査を行うか(客観性・公正性を保つため、自分の業務は自分で監査しないことが望ましい)。
- 監査の実施
監査実施時には、以下のポイントを考慮します。
- 監査基準(Criteria)の明確化
- ISO 9001規格の該当要求事項や組織の手順書・マニュアルなど、評価基準を明確にする。
- 客観的証拠の収集
- インタビューや記録(記録票・チェックシートなど)から得られる事実をもとに客観的に評価する。
- コミュニケーション
- 監査対象部門・プロセス担当者とのコミュニケーションを適切に取り、協力体制を築く。
- 監査結果の報告とフォローアップ
- 監査報告書の作成
- 発見事項(不適合や改善の余地がある点)を明確に記載し、根拠と合わせて提示する。
- 是正処置の立案と実施
- 不適合や問題点があれば、原因分析(なぜ発生したのか)を行い、再発防止策を含めた是正処置を立案・実施する。
- 効果確認と継続的改善
- 是正処置後の状況を追跡し、改善効果が得られているかを確認する。必要に応じて再度監査や改善を行う。
- 内部監査のポイントと留意事項
- 独立性・客観性: 監査員は監査対象の業務から独立していることが望ましい。利害関係のない第三者的な視点を確保する。
- 継続的な監査員の教育: 規格の最新情報や監査手法の習得を継続的に行い、監査員のスキルを高める。
- 経営層の関与: 監査の結果や改善提案を経営層がしっかり把握し、必要なリソースの投入や方針の見直しにつなげる。
ISO 9001内部監査で品質アップ!計画からフォローまでの流れ
ISO 9001の9.2「内部監査」は、組織の品質マネジメントシステムが規格および自社の要求事項に合致しているかを検証し、かつその有効性を高めるための重要な仕組みです。計画立案から実施、報告、フォローアップまで一連のプロセスを適切に管理することで、組織全体の品質レベルを維持・向上させることができます。
外部審査員の指摘事項の事例
以下に、第三者監査(外部審査)の経験を通じて気が付いた内部監査に関して指摘されやすい内容及びその背景を解説します。これらはあくまで一般的によく見られる事例であり、組織ごとに異なる場合もあります。
- 内部監査の計画(監査プログラム)の不十分さ
指摘内容の例
- 年間監査計画が明確に策定されていない
- 監査頻度が組織のリスクや重要度に見合っていない
- 監査範囲が抜け落ちている部署・プロセスがある
背景
ISO 9001の9.2では、リスクや重要度を考慮したうえで、組織が必要とする監査範囲や監査頻度を決定することが求められています。ところが、現場の都合や過去の慣習で監査計画を立てる場合、リスクが高い領域が十分に監査されなかったり、監査スケジュールが曖昧になったりしがちです。その結果、外部審査員から「必要な範囲を網羅できていない」「重要度に応じた監査が実施されていない」という指摘を受けることがあります。
- 監査員の独立性・客観性の不足
指摘内容の例
- 監査員が自部門の業務を監査している
- 利害関係がある業務を監査しているため、監査結果が客観的でない
- 監査員の選定プロセスが不明瞭
背景
内部監査は客観性・公平性を確保するために、監査員が監査対象の業務からできるだけ独立している必要があります。しかし、組織規模や人員の都合で、自部門を自分で監査せざるを得ない状況が生まれることがあります。その場合、厳正なチェックが難しくなったり、第三者から「客観性が確保されていない」と見なされたりするリスクがあります。
- 監査証拠や記録の不備
指摘内容の例
- 監査チェックリストや監査報告書が形骸化している
- 監査で確認した事実やデータが十分に記録されていない
- 「不適合なし」と判断した根拠が明示されていない
背景
ISO 9001は、客観的証拠に基づいて監査結果を判断することを重視しています。しかし、現場では時間や手間を削減しようとして監査記録が疎かになり、口頭や暗黙の了解で済ませてしまうケースがあるのが実情です。外部審査員は監査の有効性を判断するために記録を重視するため、証拠や報告が不十分だと「監査の妥当性が裏付けられていない」として指摘を受けることになります。
- 是正処置・フォローアップの不足
指摘内容の例
- 内部監査で見つかった不適合や改善点が放置されている
- 是正処置の実施状況が確認できる記録がない
- 再発防止策が実効性を持っているかどうか追跡されていない
背景
内部監査は単なるチェックに終わらず、問題を改善し、品質マネジメントシステムを向上させるために実施されます。しかし実際には、監査で見つかった不適合に対して表面的な対策のみを行い、根本原因の追究や再発防止策の検証まで十分に行われていない組織も少なくありません。外部審査員は、改善のサイクル(PDCA)がきちんと回っているかを重視するため、フォローアップが不十分な場合に指摘が入ります。
- 監査員の能力(コンピテンシー)の不明確さ
指摘内容の例
- 監査員の教育・訓練履歴やスキル要件が定義されていない
- 監査手法や規格要件に関する知識が不足している
- 監査員の選定基準が曖昧である
背景
ISO 9001では、監査員の力量を確保することが重要視されます。監査員が規格要求事項や監査手法を理解していないと、監査の質が低下し、不適合やリスクを見逃す恐れがあります。また、力量要件が明確になっていないと、組織が監査員の教育やスキル向上に必要なリソースを割く根拠が曖昧になりがちです。外部審査員は監査員の教育訓練計画やスキル評価の仕組みを確認するため、ここが不十分だと「監査の信頼性が担保されていない」と見なされる可能性があります。
形骸化か活性化か?――第三者監査が見極める「内部監査」の真価
第三者監査では、内部監査の計画から実施、報告、フォローアップに至るまでの一連のプロセスが厳しくチェックされます。内部監査が形骸化していると、組織全体の品質マネジメントシステムの有効性が疑われ、継続的な改善も進みにくくなります。逆に、内部監査をしっかりと運用し、改善につなげる文化が根付いている組織は、外部審査においても好評価を得やすくなります。