ISO9001コンサルタントの視点による“7.1.6組織の知識”追加の背景
ISO 9001:2015 における「7.1.6 組織の知識」は、2015年版で新たに追加されました。そこで、なぜこの項目が導入されたのか、その背景について順を追って解説いたします。まずは、各理由や影響について詳しく見ていきます。
組織の知識追加の理由
- 知識管理の重要性の高まり
まず第一に、近年の技術革新や市場の変化の加速により、組織にとって知識(ナレッジ)の管理が競争優位性を維持するために非常に重要になっています。さらに、従来のISO 9001では「力量(competence)」に焦点が当てられていましたが、その上、個々のスキルだけでなく、組織全体の知識を体系的に管理する必要性が認識されるようになりました。
- ISO 30401(ナレッジマネジメントシステム)の影響
次に、ISO 30401(知識マネジメントシステム)が国際標準として整備される流れの中で、ISO 9001にも「組織の知識」を取り入れる必要が生じました。すなわち、組織のノウハウや経験を文書化し、継続的に活用・改善することで、品質マネジメントの強化が期待されるためです。
- ベテラン退職や技術継承の課題
また、世界的に、特に日本では、ベテラン社員の退職や人材流動の増加により、組織内に蓄積された知識が失われるリスクが指摘されています。したがって、ISO 9001:2015では、単に手順書を作成するだけでなく、実際に組織内に存在する「暗黙知(Tacit Knowledge)」や「形式知(Explicit Knowledge)」を管理し、事業の継続性を高めることが求められております。
- リスクベースのアプローチ
最後に、ISO 9001:2015ではリスクベースの考え方が強調されております。このため、組織の知識を適切に管理することによって、業務の不確実性を低減し、継続的なパフォーマンス向上を図ることが求められております。たとえば、過去のトラブル事例や成功事例を知識として蓄積し、再発防止や業務効率化につなげることが期待されます。
ISO 9001:2015 7.1.6の具体的な要求事項
ISO 9001では、組織の知識を以下のように管理することが求められています。まず、それぞれのステップについて見ていきましょう。
- 必要な知識の特定
まず第一に、組織が提供する製品やサービスの品質を維持・向上するために、どのような知識が必要かを明確にする必要があります。**つまり、**必要な知識のリストアップが基本となります。
- 知識の維持と活用
次に、既存の知識を失わないように維持し、業務で適切に活用できる仕組みを整備します。例えば、作業標準書、業務マニュアル、ベストプラクティスの共有などが挙げられます。さらに、これにより知識の流出を防ぐ効果も期待できます。
- 知識の獲得
さらに、必要な知識が不足している場合は、新たに知識を獲得する方法を確立いたします。例として、教育訓練、ベンチマーキング、外部専門家との協力、ナレッジマネジメントシステムの導入が考えられます。**このように、**知識の不足を補う仕組みが重要となります。
- 知識の更新
また、環境や技術の変化に応じて知識を最新の状態に保つことも重要です。たとえば、新技術の導入、業界標準の変更、顧客ニーズの変化に対応するための情報収集が求められます。したがって、定期的な見直しが不可欠です。
組織の知識の具体的な管理方法
組織の知識を効果的に管理するためには、いくつかの手法が考えられます。以下に具体例を示します。
- 文書化された情報の整備
例えば、業務マニュアル、作業標準書、トラブル事例集、FAQの作成などがあり、さらに、品質記録や過去のデータをデータベース化することも有効です。このように、情報の整理と記録が基盤となります。
- ナレッジ共有の仕組み
その上、社内研修、OJT、勉強会、ナレッジ共有会の開催を通じて知識の伝達を促進します。また、ベテラン社員の知識を若手社員に伝えるためのメンタリング制度の導入も効果的です。このように、共有の仕組みが知識の活用をさらに推進します。
- ITを活用した知識管理
さらに、ナレッジマネジメントシステム(KMS)、社内Wiki、電子マニュアルの活用や、AIを利用したFAQシステム、チャットボットの導入など、ITを活用した知識管理が進められています。つまり、テクノロジーの力を借りることで、知識の蓄積と伝達がより効率的に行われるのです。
- リスク管理との連携
最後に、過去のクレームやトラブル事例をデータベース化し、リスクの再発防止に役立てるとともに、知識の喪失リスクを評価し、退職前のナレッジ移転計画を策定することが求められます。このように、リスク管理と知識管理が一体となることで、組織全体の安定性が向上します。
知識が未来を拓く!ISO 9001:2015が切り拓く品質革新の軌跡
以上のように、ISO 9001:2015 の7.1.6 組織の知識は、組織が品質マネジメントを効果的に運用するために、必要な知識を特定、維持、活用、更新することを求めています。すなわち、この要求事項が追加された背景には、以下の要因がございます。
- 知識管理の重要性が高まったこと
- ISO 30401(ナレッジマネジメント規格)の影響
- ベテラン退職や技術継承の課題
- リスクベースのアプローチとの整合性
このように、この規格を適切に運用することによって、知識の継承と活用が促進され、ひいては組織の競争力向上や品質の安定化につながると考えられます。したがって、組織は今後も継続的な改善と知識管理の強化に努める必要があります。