5.2 品質方針
品質方針はどのような位置づけなのでしょうか?品質方針の位置づけについて、わかりやすく事例を交えて解説します。
トップマネジメントは、組織として進むべき方向を示す適切な羅針盤として「品質方針」を示すことが必要です。
品質方針が含むべき事項
a) 組織の目的及び状況に適合し、戦略的な方向性を支援する
- 品質方針は、経営方針や経営戦略を実現するための考え方を分かりやすく表現します。
- 例えば、自動車部品メーカーでは「高品質で安全な製品を提供することで、顧客満足を向上させる」という方針を掲げることで、安全性と品質管理が事業戦略の中心であることを明確にします。
b) 品質目標の設定のための枠組みを与える
- 品質目標は、トップマネジメントが全社目標を設定し、部門や下位組織へ展開されます。
- 例えば、食品製造業では「製品の不良率を1%未満に抑える」という全社目標を掲げ、各製造ラインでは「ラインごとの不良率を月ごとに評価し、1%以下を維持する」などの具体的な目標を設定します。
- これらの目標達成状況は定期的に評価され、必要に応じて対策を実施します。 例として、品質評価の結果、不良率が1%を超えた場合は、原因分析を行い、設備のメンテナンスや作業手順の見直しを実施します。
c) 適用される要求事項を満たすことへのコミットメントを含む
- 組織が満たすべき要求事項に対して責任を持ち、それを達成する努力を表明します。
- 例えば、一般的な製造業では、ISO 9001(品質マネジメントシステムの国際規格)に準拠することを品質方針に明記し、製品の設計、製造、出荷の各プロセスでこの要求事項を満たすための具体的な手順を確立します。
d) 品質マネジメントシステムの継続的改善へのコミットメントを含む
- 組織は絶えず変化する状況に対応するため、品質マネジメントシステムの見直しや改善を行う仕組みを整備し、その継続的改善を品質方針に明示します。
- 例えば、製造業では、定期的に製品の品質検査データを分析し、不良の発生傾向を把握することで品質向上のための改善計画を実施します。不良品率が特定のラインで増加した場合、生産設備の調整や作業者の再教育を行うことで改善を図ります。
品質方針の伝達
品質方針の伝達を効果的に行うためには、以下の事項を実施することが考えられます。
- 社内掲示: 品質方針をポスターや掲示板に掲載し、全従業員が目にする機会を増やす。
- 定期的な教育・研修: 品質方針に関する研修を実施し、新入社員や既存社員へ継続的に周知する。品質方針は、品質活動のための価値基準です。
- ミーティングでの共有: 部門ごとの定例会議で品質方針の重要性を確認し、具体的な行動指針と関連付ける。
- 文書の配布: 品質マニュアルやイントラネットを活用し、方針の詳細を閲覧できる環境を整える。
- トップマネジメントの発信: 経営層が品質方針の意義を直接伝え、従業員の意識向上を図る。
- フィードバックの収集: 従業員からの意見を取り入れ、品質方針の実効性を定期的に見直す。
品質方針が社内に周知されていない場合に発生し得る不都合な事例
1.品質基準のばらつきが発生する
例えば、製造ラインの作業者が品質方針を認識していないため、品質管理基準が徹底されず、製品の品質にばらつきが生じる。結果として、不良品の増加やクレームが発生する。
2.顧客クレームやリコールの増加
品質方針に基づいた適切な管理がされていないため、製品の不具合が増加し、顧客クレームが頻発。最悪の場合、製品の回収(リコール)につながる可能性がある。
3.従業員の品質意識が低下する
品質方針が明確に伝わっていないと、従業員が品質の重要性を理解できず、問題が発生しても改善の意識が低くなる。結果として、ミスが繰り返され、組織の信頼性が低下する。
4.規格や法令違反が発生する
ISO 9001や業界特有の規格、法律の要件を満たすことが品質方針の一部であるが、社内に伝わっていないと、それらの規格に適合しない業務が発生し、監査で指摘を受けたり、取引先からの信用を失うリスクがある。
5.品質改善が進まない
継続的な改善が品質方針に含まれているが、現場に伝わっていなければ、品質向上のための提案や改善活動が行われず、競争力が低下する。
6.部署間の連携が取れず、トラブルが増加する
品質方針に基づいた一貫した業務が行われないため、設計、製造、品質管理などの部門間で認識のズレが生じ、トラブルが発生しやすくなる。
7.トップマネジメントの方針が現場に浸透せず、組織の方向性が不明確になる
品質方針が適切に伝達されていないと、経営層の意図が現場に届かず、全社的な品質向上の取り組みが不十分となる。結果的に、企業の競争力が低下する。
このような不都合を回避するためにも、品質方針の適切な伝達が不可欠です。
以上