ISO14001:2026改訂で注目される「生物多様性」とは何か― 身近な事例で理解する自然界のバランスの仕組み ―

前回の記事では、「多様性」とは
いろいろな要素が共存し、それぞれの役割が相互に影響し合い、
全体としてバランスよく機能している状態
であることを整理しました。
では、この考え方を自然界に当てはめた
「生物多様性」 とは、どのようなことを意味するのでしょうか。
生物多様性とは「自然界における多様性」
生物多様性とは、
生き物や自然環境が多様に存在し、
それぞれが役割を持って関係し合いながら、
自然全体が機能している状態
を指します。
ここで重要なのは、
「珍しい生き物がたくさんいること」ではありません。
👉 生物多様性とは、自然界の“仕組み”そのものです。
生物多様性の3つのレベル(簡単に)
生物多様性は、次の3つのレベルで説明されます。
1. 生態系の多様性
森・川・海・農地など、環境のまとまり
2. 種の多様性
動物・植物・昆虫・微生物など、生き物の種類
3. 遺伝子の多様性
同じ種の中でも異なる性質を持つこと
これらが重なり合うことで、自然は安定して機能しています。
身近な事例①:川と生き物の関係
一つの川を思い浮かべてみてください。
- 上流には森林があり
- 中流には農地や集落があり
- 下流には海があります
川の水は、
- 森林で保水され
- 土や微生物によって浄化され
- 多くの生き物のすみかになります
もし、上流の森林が失われると…
- 雨水が一気に流れ出す
- 土砂が川に流れ込む
- 水生生物が住みにくくなる
👉 一部の変化が、川全体の生態系に影響します。
これは、生態系の多様性が失われた例です。
身近な事例②:ミツバチと農作物
前回の記事でも触れたミツバチの例は、
生物多様性を理解するうえで非常に分かりやすい事例です。
- ミツバチは花から蜜や花粉を得る
- 花や農作物は、ミツバチによって受粉する
ミツバチが減ると…
- 野菜や果物の受粉がうまくいかない
- 収穫量が減る
- 食料供給に影響が出る
👉 生物多様性は、私たちの食生活にも直結しています。
身近な事例③:微生物と土・水の関係
目に見えにくい存在ですが、
微生物も生物多様性の重要な担い手です。
- 土の中の微生物
- 水の中の微生物
これらは、
- 有機物を分解する
- 水や土をきれいに保つ
という役割を担っています。
もし微生物が減ると…
- 土がやせる
- 水質が悪化する
- 植物や水生生物が育ちにくくなる
👉 生物多様性は、見えないところで支えられています。
生物多様性が失われると起きること
生物多様性が失われると、
- 自然環境が不安定になる
- 災害リスクが高まる
- 水や資源が不安定になる
といった影響が、時間差で現れます。
重要なのは、
👉 原因と結果が離れた場所・時間で起きる
という点です。
なぜ「企業にも関係する話」なのか
ここまで読むと、
「自然の話であって、企業活動とは別では?」
と感じるかもしれません。
しかし企業活動は、
- 水を使う
- 資源を使う
- 排水・廃棄物を出す
- 土地を利用する
という形で、必ず自然環境と関わっています。
👉 企業は生物多様性の影響を受ける側であり、
同時に影響を与える側でもあります。
ライフサイクルで見ると、より分かりやすい
製造業の活動をライフサイクルで見ると、
- 原材料の採掘・生産
- 輸送
- 自社での製造
- 使用
- 廃棄・リサイクル
という流れがあります。
特に生物多様性への影響は、
- 原材料の採掘
- 水・土地利用
といった 上流工程で大きくなりがち です。
自社の工場内だけでなく、
製品が生まれる前後まで含めて考えることが、生物多様性の特徴です。
生物多様性を一言で言うと
ここまでの内容をまとめると、生物多様性とは、
自然界における多様な要素がつながり合い、
全体として安定し、
私たちの暮らしや産業を支えている仕組み
と表現できます。
次の記事へ:ISO14001ではどう考えるのか
では、この生物多様性を
ISO14001では、どのように整理し、
どこまで対応すればよいのでしょうか。
次回の記事では、
「ISO14001における生物多様性への取組み」
― 中小企業が実務で考えるポイント ―
として、
- 環境側面
- リスクと機会
- ライフサイクル視点
を使いながら、現実的な対応レベルを解説します。
シリーズ構成メモ
- 記事①:多様性とは何か(考え方の土台)
- 記事②:生物多様性とは何か(自然界の仕組み)
- 記事③:ISO14001と生物多様性(実務対応)
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