ISO14001における「生物多様性」への取組みとは?― 中小製造業が実務で考えるポイントと運用の考え方 ―

前回の記事では、「生物多様性」とは
自然界における多様な要素が相互に関係し合い、全体としてバランスよく機能している仕組み
であることを整理しました。
では、この生物多様性を
ISO14001では、どのように捉え、実務としてどのように考えればよいのでしょうか。
本記事では、ISO14001の要求事項(箇条)に沿って、
生物多様性をどのような視点で考慮すればよいかを、
中小製造業向けに整理します。
最初に押さえておきたい考え方
生物多様性への対応について、
ISO14001が求めているのは、
- 自然保護活動を行うこと
- 特別な環境プロジェクトを新たに立ち上げること
ではありません。
重要なのは、
自社の事業活動が、生物多様性にどのような影響を与える可能性があるかを理解し、
既存の環境マネジメントの枠組みの中で整理・管理していること
この状態にあるかどうかです。
ISO14001 箇条ごとの考え方(生物多様性の視点)
生物多様性をどのように織り込めばよいかを、
ISO14001の箇条に沿って整理します。
生物多様性の考慮ポイント【一覧】
|
ISO14001 箇条 |
観点 |
生物多様性の考慮例 |
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4.1 組織の状況 |
外部・内部課題 |
生物多様性の劣化、気候変動、水資源、自然環境の変化 |
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4.2 利害関係者 |
ニーズ・期待 |
顧客要求、地域社会、行政の関心 |
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6.1 環境側面 |
影響評価 |
排水、廃棄物、薬品、土地利用など |
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6.1 リスクと機会 |
事業影響 |
調達不安、水不足、操業リスク |
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6.2 環境目標 |
改善活動 |
管理レベル向上、事故防止 |
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8.1 運用管理 |
日常管理 |
漏えい防止、点検、教育 |
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9.1 パフォーマンス |
監視・測定 |
管理状況の確認、是正 |
|
10 改善 |
継続改善 |
見直し・仕組み改善 |
箇条別に見る実務の考え方
① 4.1 組織の状況
― 生物多様性は「外部の課題」として整理する
生物多様性に関する要素は、多くの場合、
- 自然環境の変化
- 水資源の不安定化
- 生態系の劣化
といった形で、自社では直接コントロールできない外部課題として捉えられます。
これらを、
「事業活動に影響を与える可能性がある外部環境」
として整理しておくことが重要です。
※ 詳細な分析までは求められておらず、
影響の可能性を認識していることがポイントになります。
② 4.2 利害関係者のニーズ
― 社会・顧客の関心として意識する
生物多様性は、現時点では明確な要求事項でなくても、
- 顧客からの環境配慮要求
- 地域住民・自治体の関心
- ESG・サプライチェーン上の動き
といった形で、今後ニーズとして顕在化する可能性があります。
そのため、
将来的に影響し得るテーマとして把握している状態にしておくことが現実的です。
③ 6.1 環境側面
― 生物多様性は「新しい環境側面」ではない
多くの中小製造業では、すでに次のような環境側面を管理しています。
- 排水
- 廃棄物
- 薬品・油
- 騒音・振動
これらに対して、
「生物多様性への影響」という視点を重ねて考える
という整理が有効です。
例として、
- 排水 → 水生生物への影響の可能性
- 廃棄物 → 土壌・地下水への影響の可能性
- 薬品 → 生態毒性の可能性
といった見方が考えられます。
④ 6.1 リスクと機会
― 生物多様性は経営リスクにもつながり得る
生物多様性の劣化は、
- 水不足
- 原材料調達不安
- 災害リスクの増加
といった形で、事業活動への影響として表れることがあります。
このため、
- リスク:操業への影響、調達不安
- 機会:安定操業、顧客評価の向上
といった観点で整理しておくと、
ISO14001の要求との整合が取りやすくなります。
⑤ 6.2 環境目標
― 定量目標でなくても整理できる
生物多様性については、
CO₂削減のような定量目標を必ず設定する必要はありません。
中小企業では、
- 管理レベルの維持・向上
- 事故・トラブルの防止
- 手順遵守の徹底
といった 運用管理型の目標として整理するケースも多く見られます。
生物多様性に関する運用の考え方
① 計画(Plan)
- 環境側面に生物多様性の視点を反映
- リスクと機会の整理
- 管理対象の明確化
② 組織への定着(Do)
- 排水・薬品管理手順の明確化
- 点検・教育の実施
- 現場での注意喚起
※ 必ずしも「生物多様性」という言葉を前面に出す必要はなく、
既存ルールの意味づけとして説明する方が定着しやすい場合もあります。
③ パフォーマンス評価(Check)
- 管理が守られているか
- 漏えい・トラブルが発生していないか
- 是正が適切に行われているか
④ 改善(Act)
- 管理方法の見直し
- 教育内容の改善
- 仕組みの簡素化
完璧を目指すのではなく、
自社に合った形で回し続けることが重要です。
中小製造業向け・実務的なまとめ
- 生物多様性は、新たな負担を増やすものではありません
- 既存のISO14001を、少し広い視点で見直すテーマと捉えることができます
重要なのは、
- 理解している
- 管理している
- 説明できる
この3点を満たしている状態にしておくことです。
シリーズ全体の整理
- 記事①:多様性とは何か(考え方の土台)
- 記事②:生物多様性とは何か(自然界の仕組み)
- 記事③:ISO14001と生物多様性(実務の考え方)
この流れで整理することで、
ISO14001:2026 における生物多様性への対応は、
中小企業にとっても現実的に捉えられるものになります。
補足
実際の運用では、
「どこまでを対象にするか」「どの管理レベルが妥当か」は、
事業内容や既存の環境マネジメントの状況によって異なります。
そのため、
自社の状況に合わせて整理・設計していくことが重要になります。
特に、ISO14001:2026への移行を見据える場合には、
この整理の仕方が、その後の運用定着に大きく影響します。
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