令和グループ(ISOコンサルティング)

ISO14001:2026で「生物多様性」が重視される理由とは?― 規格改訂の背景から読み解く考え方の変化 ―

ISO14001-2026で「生物多様性」が重視される理由とは?

 

 

ISO14001について情報を探していると、
「どこに記載すればよいのか」「審査では何を聞かれるのか」
といった実務的な話題が多く目に入ります。

 

しかし、ISO14001:2026で新たに注目されている「生物多様性」について、
なぜこのテーマが規格の中で扱われるようになったのか
その背景や考え方まで理解している組織は、決して多くありません。

 

ISO規格は、ある日突然つくられるものではありません。
世界各国で起きた失敗や反省、「同じことを繰り返してはいけない」という議論の積み重ねを経て、
その結論部分だけが規格の文言として整理されています。

 

本記事では、具体的な対応方法や実務の話には触れず、
ISO14001:2026でなぜ生物多様性が重視されるようになったのか
その背景となる考え方を整理します。

 

 

これまでのISO14001における「環境」の捉え方

 

これまでのISO14001では、
「環境影響」といえば、主に自社の事業活動の結果として生じるものが中心でした。

  • 排水や排ガス
  • 廃棄物
  • 騒音や臭気
  • 法令順守の状況

 

といったように、
事業所や工場の中で発生する影響をどう管理するかが主な関心事でした。

 

この考え方自体が間違っていたわけではありません。
当時の社会的背景や環境問題の状況を踏まえれば、

合理的な環境マネジメントの枠組みだったと言えます。

 

一方で、この視点だけでは捉えきれない問題が、徐々に明らかになってきました。

 

 

なぜ今、その考え方では不十分になったのか

 

近年、世界的に共有されるようになった認識があります。
それは、人間の経済活動が、自然の回復力や調整力を超えつつあるという事実です。

 

気候変動、生態系の劣化、資源の枯渇などは、
いずれも個別に起きている問題ではなく、相互に深く関係しています。

 

その中で、生物多様性の損失は、

  • 生態系の回復力を低下させ
  • 水や土壌の質に影響を与え
  • 結果として、人間社会の持続性そのものを揺るがす

という点で、重大な問題として認識されるようになりました。

 

ISOが「環境」を再定義せざるを得なくなった背景には、
こうした世界的な状況の変化があります。

 

 

生物多様性は「新しい環境テーマ」ではない

 

生物多様性という言葉から、
「希少生物の保護」や「自然保護活動」を思い浮かべる方も多いかもしれません。

 

しかし、ISO14001:2026で扱われている生物多様性は、
特定の生物を守ることを目的としたものではありません。

 

本質は、
人間の事業活動が、どのような自然環境のバランスの上に成り立っているのか
という前提を理解することにあります。

 

その考え方を理解するために、身近な事例を一つ見てみましょう。

 

 

生物多様性を理解するための身近な事例

 

― 外来種「ブラックバス」が示すもの ―

 

ブラックバスは北米原産の魚で、日本では外来種として知られています。
琵琶湖をはじめ各地に持ち込まれた結果、小魚を大量に捕食し、
それまで保たれていた生態系のバランスが変化してきました。

 

重要なのは、ブラックバスそのものが「悪い存在」だということではありません。
本来の生息地では、他の生物との関係の中でバランスが保たれ、
生態系の一部として意味を持っています。

 

しかし、人為的に異なる環境へ持ち込まれたことで、
その地域の生態系に大きな影響を与える結果となりました。

 

この事例が示しているのは、
生物は単独で存在しているのではなく、
環境全体の関係性の中で意味を持つ存在である
という点です。

 

生物多様性とは、個々の生物の善悪を判断する概念ではなく、
こうした関係性やバランスそのものをどう捉えるか、という考え方なのです。

 

 

ISO14001:2026で起きている「問いのレベル」の変化

 

 

ISO14001:2026では、環境に対する問いのレベルが変わりつつあります。

これまでのように
「どのような環境影響があるか」
という問いだけでなく、

  • その事業活動は、どのような自然環境の上に成り立っているのか
  • その前提となる環境が損なわれた場合、何が起こり得るのか

 

といった、より根本的な問いが意識されるようになっています。

生物多様性は、この変化を象徴するテーマです。

 

 

なぜ「すべての組織」に関係するテーマなのか

 

「自然を直接扱っていないから関係ない」
そう感じる組織もあるかもしれません。

 

しかし、どのような事業活動であっても、

  • 資源を使い
  • エネルギーを使い
  • 立地環境や周辺環境の影響を受け

自然環境の上に成り立っています。

 

生物多様性は、特定の業種や規模の問題ではなく、
すべての組織が共有している前提条件に関わるテーマなのです。

 

 

まとめ:理解が先、対応はその後

 

ISO14001:2026で生物多様性が重視されるようになったのは、
新たな要求事項を増やすことが目的ではありません。

 

環境マネジメントの前提となる考え方を、
改めて見直してほしいというメッセージだと捉えることができます。

 

具体的な対応や実務の検討は、
こうした背景や考え方を理解した上で、初めて意味を持ちます。

 

次の記事では、
ISO14001:2026において、生物多様性がどのような位置づけとして捉えられるようになったのか
について、さらに整理していきます。

 

 

▶ 生物多様性シリーズの全体像はこちら

ISO14001:2026改訂で注目される「生物多様性」対応ハブ― 中小製造業が今から理解しておきたい考え方と実務整理 ―

 

 

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    この記事を書いた人

    野田博

    早稲田大学理工学部卒。住友金属工業株式会社にて製鉄所および本社勤務を経て、関連会社の経営に携わる。ISOの分野では、JQAおよびASRにて主任審査員を歴任(現役)。JQAにおいては審査品質・実績が高く評価され、TOP5%審査員として表彰された実績を持つ。対応規格はISO9001、ISO14001。現在は中小企業を中心に、実務に即したシンプルなISO導入・運用支援を行っている。

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